2011.11.27 (Sun)

ペテル・ノヴァーク一家のクリスマス

ペテル・ノヴァーク一家は、プラハの北にある工業地、クラドノという町で生活している。
妻のアレナ、長女のアニチュカ、長男のホンジークの4人家族。
決して裕福ではないけれど、いつも笑いと愛にあふれた幸せ一杯の家族だ。

毎年12月になると、家族、親戚、友人へのクリスマスプレゼントを買うためプラハに行き、
クリスマスマーケットを訪れるのを楽しみにしている。

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今年もローカルバスでプラハまでやってきた。数ヶ月ぶりのプラハである。
バスはデイヴィツカーが終点だから、そこから地下鉄に乗り換え、スタロムニェストゥスカーで下車。
一家は市場のたつ旧市街広場へ目指す。

普段は寡黙なペテルだけれど、この日だけは子供に帰ったように満面の笑みになる。
「お前たち、マーケットで何を食べて、何を買おうか?」

いつも以上に懐に余裕のあるペテルは上機嫌だ。
余裕があるといっても、毎年、この日のために毎日の生活を妻のアレナと共に切り詰めていた。
ペテルは好きなタバコをやめた。
アレナもほしい洋服を新調することなく、もっている服のみでコーディネートをしていた。
それでも近所の奥様連中よりは大分美人ではあったけれど・・・

父の問いに、子供たちは口々に答える。
「トゥルデルニークが食べたい。」

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「チキンの串焼きがいいな。」

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黙っている妻のアレナに優しい表情でペテルは尋ねた。
「お前は何がいいんだよ。」

アレナはうつむきながら答えた。
「私は焼き栗がいいわ。10年前はなかったわよね。焼き栗なんて・・・」
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家族のうれしそうな顔を見てペテルの顔もほころぶ。
「俺は幸せだな・・・良い家族をもてた。このまま幸せが続けば御の字だよ。」
と、心の中で叫んでいた。

目当ての食事を買い求めると、広場の中央でお互い分け合いながら楽しい食事が始まった。
「チキン美味しいね!」
ホンジークはチキンをほおばりながらはしゃぐ。

「トゥルデルニークは一人では食べられないからママ助けて!」
とアニチュカ。

「あなた、栗、甘いわよ。」
アレナはペテルに焼き栗を渡す。

「さあ、食べ物ではない物をゆっくり見よう!」
ペテルは先頭に立って、市場を歩き始めた。
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マリオネット、クリスマスツリーのオーナメント、帽子、手袋・・・
それぞれに、これはおばあちゃんに、いやちがうおじいさんに、これは従兄弟のカレルに・・・
など、話しながら歩いていた。

マリオネットを売っている屋台のそばで、いきなりペテルが立ちすくんだ。

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顔を引きつらせながら、上着のポケット、ズボンのポケット、かばんの中を探している。

尋常でないペテルの態度に驚いたアレナは、
「あなた・・・あなた、どうしたの・・・」

ペテルは答えない。

「あなた、ひょっとして・・・」

ペテルは唇を噛み締め、黙ってうなづくだけだ。

アニチュカとホンジークは無邪気に言う。
「パパ、おばあちゃんにマフラーを買ってあげようよ!」

ペテルは答えない。

「パパ?」

アレナは黙って子供たちの手を引く。

ペテルは重い沈黙を破る。
「さあ帰ろう。今年の市場もきれいじゃないか。」

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事情を読めない子供たちは、まだ帰りたくない様子で、「おじいちゃんのプレゼント、カレルの!!」
と騒いでいるが、ペテルには子供の声は聞こえていない。

この日のために、この日のために生活を切り詰めていたのに・・・

「なぜオレが・・・どうして?」

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行き交う人もまともに見えない。
それはアレナも一緒だった。
すでに彼らにはきれいな市場ではなくなっていた。

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くるくると目が回り、問いだけが心の中を駆けめぐる。
「なぜ、オレなんだ?なぜ我が家なんだ。真実っていったい何なのだ!」

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真実の象徴、ヤン・フスも何も答えてあげられない。

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ペテルとアレナは目を潤わせながら市場を後にするしかなかった。

ある年の、ペテル・ノヴァーク一家のクリスマスの出来事である。

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この物語はフィクションであり、登場人物、出来事は架空のものであります。





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20:33  |  チェコネタ  |  トラックバック(0)  |  コメント(0)  |  編集  |  Top↑

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